「おむつ、もう外せるんじゃないでしょうか」 と、職員から言われ、Ｙさんは耳を疑った。 二女（２７）が入っている白河育成園、 午後６時消灯の同園は多量の睡眠薬を園生に飲ませていた。 薬の影響で夜中トイレに起きられない二女が　おむつ　をされていたことを初めて知った。 二女は小学校まで普通学級に通っていた。 「援助があれば自立生活ができる園生が多いのに、家畜のように扱われボロボロにされていく」。 現地調査した弁護団は、同園の「福祉」の惨状をそう指摘する。 Ｙさんの二女は、小学校高学年のころいじめに遭ってから、 いらだつとガラスを割り、夜中に家を飛び出すようになった。 「危険なので外に出ないよう家族が目を光らせる。そんな毎日に疲れてしまいました」。 近隣の施設では「落ち着きのない子は預かれない」と断られた。 別の施設に入れたが、翌日、退園を求められた。 白河育成園を見学したのはその直後。 「うちは終生面倒をみます」。理事長の言葉に喜んだ。

「恥ずかしかったのか、家では一度もおむつの話はしなかった。

　「早くここから出たい。ちゃんと仕事がしたい。 喫茶店にも行きたい。 デートもしたいし、お金をためて結婚もしたい」。 Ｓさんの長男（３３）は、調査に訪れた弁護士にそう訴えた。 隣に座るＳさんの顔がゆがんだ。 養護学校を卒業後は授産施設やクリーニング店で働いた。 障害は軽いが、自分と他人の物の区別がつかなくなることがあり、警察に呼び出されることもあった。 「親が元気なうちにいい施設を」と、同園に託した。 だが、園は親に８００万円の寄付を強要。 昨年からは月２万円、さらには１万円を上乗せしようとした。 年金生活で苦しいＳさんがちゅうちょすると「子供が可愛くないのか」と迫られた。 園生のうち最もひどく暴力を振るわれていた１人が長男とも知った。 帰省した長男に添い寝しながら、Ｓさんは思った。 「親自身いつどうなるか分からない。 がまんして寄付を続ければ一生、面倒をみてもらえると思ってきた。 そんな親の気持ちを知り、息子は何も訴えられずにいたのか……」

　退職した女性指導員は弁護団への手紙で書いた。
「夏休み直前、××君（園生）の目のまわりにできた真っ青なアザの色が忘れられない。 園生たちが　『園長先生（理事長）がサンダルのかかとで殴った』　と言っていた。 女子棟で○○さんが、『園長先生の昨夜の△△さんへの暴力、かわいそうでみていられなかった』と話した」と 暴力が日常的に行われていたことを告白。 「（暴力などが）発覚してほんとうによかった。私は逃げることしかできなかったけれど、 園生には人間らしい生活をしてほしい」。

また、退職した別の指導員は「（園生が）障子を破いたり物を壊したりすると、 （私自身も）ご飯を抜きにしたり、言葉で嫌がらせをしていた。 一人一人を大切にできず申し訳なかった」と謝罪している。

　１９９７年１１月、 東京都出身の園生が８割を占める福島県西郷村の知的障害者施設、 「白河育成園」で、園生への暴力や過剰な薬物投与、保護者への多額寄付の強要が行われていたことが分かり、 都と各区市は補助金の打ち切りを決めた。 同園を公的施設として安易に認可し、 多額の補助金をつぎ込んできた行政の責任も厳しく問われそうだ。 同園は１９８８年、無認可施設として発足したが、昨年１月、 福島県の認可に伴い、１人あたり月２１万円の措置費が支給されるようになった。 被害救済に取り組んでいる東京都権利擁護センターや弁護団によると、 無認可だったころ、施設改築費として、１人あたり８００万円の寄付を要請。 一括して払えなかった保護者は分割払いで全員が寄付契約を結んだ。 認可後も、過去の融資返済などを理由に月２万円の寄付を要請。 さらに月１万円の上積みを要求、 保護者側は７月まで支払いを続けていた。

　園生を管理しやすくするため、 精神安定剤や睡眠薬などを大量に投与。 医師の処方を受けずに勝手に量を増やし、無気力になり、よだれを垂らし続けたり、 視力が極度に悪化するなど、薬物の影響が表れている。 殴る、けるなどの暴力や柱に縛りつける、 などの体罰も絶えず、一部の職員や保護者が、都などに相談し、被害が発覚、 福島県は施設への立ち入り調査・監査を実施。
（１）体罰の疑いがあるので入所者の人権を尊重する
（２）入所者のほとんどに複数の薬が投与され、副作用が心配されるので服用を慎重に取り扱う
――などと指導した。 だが、その後も職員による暴力や“薬漬け”は続いているという。 園生は２０代から５０代で、２６人が都出身。 弁護団は「大量の薬物を使って、人間性を奪うような虐待は前代未聞だ」と言う。 保護者らと弁護団は、都庁内で会見し、 同園で受けた医薬品投与や体罰の実態を訴えた。 ある保護者は「『いつ死人が出てもおかしくない』と今年３月、初めて職員から知らされた」といい、 長女（３２）が毛布に巻かれて柱に縛りつけられ、放置された事実などを証言。 保護者会長は「１人８００万円も寄付をさせられた。 理事長からは『認可申請の条件だ。子供がかわいくないのか』と言われ、出さざるを得なかった」と訴えた。 弁護団は、医師の処方のない薬の投与や体罰について、 医師法違反や傷害罪で理事長らの告発を検討していると明らかにした。

　東京都は「都外施設」では十分な監督ができないと判断し、 都出身者のための知的障害者施設を他県にも設置している方針を見直し、 今後は新たな「都外施設」をつくらないことを決めた。 一方、厚生省も、施設などで虐待の被害に遭った知的障害者を救済するため、 全都道府県に「障害者１１０番」を設置する方針を固めた。 都の知的障害者施設は、 建設用地の不足と地価の高騰などで都内に建設することが困難になったため、 １９８０年代に入って毎年１〜３カ所ずつ、他県に建設されるようになった。 現在６８カ所ある同施設のうち、４２カ所が都外にある。 それでも、都内には待機者がなお約９００人おり、保護者の要望が 「都外施設」の建設ラッシュを推し進めてきた。 「都外施設」は通常、認可の権限を地元の県が持ち、 都は施設の建設費用と運営費の一部を、区は 入所者１人当たり月２１万円の措置費を支出する。 都内の施設は毎年、監査することが義務づけられているが、 「都外施設」に関しては監査は地元自治体が行い、都は ２年に１回ほど現地調査を行っているのが実情。 遠隔地にあることなどから調査は形式的になりがちで、 「白河育成園」の虐待について都は把握していなかった。 都は今後、同施設を新設しない代わりに、 障害者が地域で生活するためのグループホームなどを増設し、 施設入所型の処遇から地域生活型のケアへ転換を目指す。 白河育成園の被害救済に取り組んでいる弁護団は「障害者施設を遠隔地に建設する“棄民政策”を改めるのは当然だ。 『都外施設』で今暮らしている障害者のうち都内に戻りたい人は、すぐに希望をかなえるべきだ。 せめて、第三者を含めた調査団を作り、すべての都外施設について人権侵害がないか調べるべきだ」と主張する。 都精神薄弱者福祉課長は「知的障害者の施設は、 他の福祉施設に比べ、都外に建設されている率が高いのは事実。 入所者から抗議や批判が起こりにくいためで、今後は だれもが自分の生まれ育った地域で暮らしていけるような福祉を目指す」と話している。

　１１月２１日、保護者・弁護団と東京都・区市との話し合いが行われた。 「あんな施設に障害者を次々と紹介しながら、何の調査もしなかった行政の責任は重い。 謝罪してほしい」と弁護団は強く抗議。 都側は「園生の希望を優先し、施設を出て自立したい人には要望がかなうようバックアップする」と、 各園生の今後の処遇について協議した。

　１１月２８日、白河育成園問題が衆院厚生委員会で取り上げられ、 厚生省の総務審議官は「極めて残念な人権侵害。施設長や一部の職員が知的障害者への理解に欠けていた」と述べた。 審議官は「都や保護者の目が届かなかったのが、このような事態を招いた」としたうえ、 「（障害者は）施設入所が必要な場合もできるだけ住み慣れた地域の施設に入ることが望ましい」と述べ、 地価の安い遠隔地に障害者施設を多数作ってきた都の福祉施策を批判した。

　保護者と弁護団は、退所を希望している園生を近く一斉に引き取ることを決めた。 行政側の対応が遅れ、ほとんどの園生の行き場がまだ決まっていないが、 「園生のうち複数の女性が性的被害を受けていたことを　新たに訴え、動揺が広がっている」（弁護団）ため。 このうち３人の女性はすでに自宅に戻っており、 ほかの園生も最終的な受け入れ施設が決まるまで自宅などで待機する。 弁護団は東京都と区市に、早急に受け皿を整えるとともに、 被害を徹底究明するよう求めている。 計３１人の園生のうち、当初から退所を希望しているのは２１人。 このうち横浜市出身の男性２人については同市が市営の障害者施設に受け入れることを確約。 また、障害者ではなく同園と私的契約の形で入っていた女性（６２）は 都内の老人施設に移ることになった。 ところが、都出身の残り１８人は都・区市の対応が鈍く、いずれも受け入れ施設が決まっていない。 園生の中には長年にわたる薬物の大量投与で重い症状が表れているケースもあり、 保護者らは都・区市に対して、園生全員を早急に専門施設に移し治療を受けさせるよう求めていた。 一方、弁護団によると、今月初め、複数の女性園生が性的被害を受けていたことを職員に打ち明けた。 このため弁護団が施設を訪れ女性らから事情を聴いたところ、３人が具体的に性的被害を証言したため、 そのまま都内の自宅に連れ戻した。 残された園生たちも動揺が激しく、１５日までに全員が引き揚げることを決めた。 また、弁護団によると、当初は園の存続を求めていた１０人のうち現在は９人が退所を希望しているといい、 同園に残ることを表明しているのは一人だけになった。

理事長は、性的被害の訴えについて「エーッ、そんな話が出ているのか。 おかしい。もし、事実なら、なぜもっと早く出なかったのか。 そういう事実はない」と話した。

　白河育成園で１９８８年の施設開設以降、２０人近い職員が解雇されたり退職していたことが １２月１２日までの関係者の証言で分かった。 福島県から法人認可を受けた昨年１月以降だけでも、 ５人の職員が辞めて正看護婦がいなくなるなど、園の運営はがたがた。 被害者弁護団には、虐待報道があって以降、元職員から園生への暴力を告発したり、 自らの心情を吐露する手紙が次々に届いている。 法人認可時の同園の職員は１６人。 認可後に作業指導員２人、正看護婦２人、事務員１人が辞めた。 人員補充などで現在の職員は１５人おり、うち１人が准看護婦の資格をもっているため、 厚生省令の基準を一応は満たしている。 しかし、この准看護婦は作業指導員を兼務しており、 施設では専従の看護婦を配置できないままになっている。 今年３月末で退職した３０歳代の看護婦は、医師の処方がなく大量の薬物を園生に投与させる処遇方針などについて、 たびたび理事長と口論になった。 その揚げ句、「そんな考えなら辞めてしまえ」と言われ、３月ごろに「退職願」の書類を渡され、 提出するよう強要されたという。 同園は認可後、東京都内の区市などから園生１人当たり月約２８万円の「措置費」を受けて運営しており、 年間で１億円以上の公費を得ている。 ところが、認可されて１年余で職員の３分の１近くが辞めるという“異常事態”にもかかわらず、 都や区市などは適切な調査や指導をしていなかった。

　１６人の園生が１２月１４日、一斉に退所した。 これで退去者は計２３人となった。 同園には現在８人が残っているが、園生の退所に伴い行政からの措置費（施設運営費）が大幅に打ち切られるため、 同園の経営は事実上困難になった。 退所した園生のほとんどが行き場が決まっておらず、 保護者と弁護団は１５日午後、東京都を訪れ早急に受け皿を用意するよう要望する。 また、１４日に複数の女性園生が性的被害を受けていたと訴えていることについて、 保護者・弁護団と理事長らとの話し合いが行われた。 理事長は自らが女性園生の入浴介助をしていたことを認めたが、 性的暴行などについては「陳謝しなければならないような事実はない」と述べ、園側の関与を否定した。 この日は東京都内の区市の福祉事務所職員らも同行し園生らの退所に立ち会った。 葛飾区の職員は「区内には園生を受け入れられる施設がないので都にお願いしている」などと話した。 保護者のＴさん（５５）は 「ここまで虐待の被害が明らかになっても行政は何もしてくれない。 新しい行き場がなく、ほとんどの園生が自宅待機を強いられる。 子供の面倒を見るため仕事をやめた親もいる」と話した。

　福島県警捜査１課と生活保安課、白河署は１９日、理事長から任意で事情聴取するとともに、同園から薬物関係の資料を押収した。 既に聴取を受けた園の嘱託医は、毎日新聞の取材に 「私の処方を無視して薬物を使っていたとは知らなかった」と証言しており、 同課などは理事長を厳しく追及する方針。 一方、被害者弁護団は「数人の女性園生が日常的に性的被害を受けていた」として 近く理事長らを告発することを決めた。 「暴力」「薬漬け」に端を発した事件はさらに広がる様相を見せている。 同園の内部資料によると、１９９０年３月に入った男性園生（２６）は当時、 精神安定剤など計６種類を１日に服用していたが、次第に薬の種類と量が増え、 今年１月には精神安定剤、抗てんかん薬など計１０種類を服用させられていた。 男性はろれつが回らなくなったり、よだれを垂らしたりといった症状が出ていた。 これらの薬はいずれも医師の処方が必要で、 血圧降下やけん怠感などの副作用があるため慎重な投与が義務付けられている。 だが、嘱託医は「投薬量を減らしていく方向で治療してきたのに、 処方を無視して（過剰に）飲ませていたとは知らなかった。 食後と寝る前に分けて服用すべき薬を、一緒に飲ませていたことも初めて知った。 私はそんな処方はしていない」と証言した。 県警は、理事長が医師の処方を得ずに薬の増量を指示していた疑いが強いとして、 理事長らから投薬状況について詳しく事情を聴いたとみられる。 この男性は、７月３日に県が監査に入った際、ぐったりして床に寝かされていたため、 驚いた県職員が病院に搬送するよう指示し、やっと治療を受けることができた。 父親（６１）は「理事長は『薬を次第に減らしていく』と言ったのに、 薬で息子を廃人のようにされた」と話している。 同課は、既に職員や父母十数人から事情を聴いており、 退園した２３人の園生も心身の状態が落ち着いてから直接、被害状況を聞くことにしている。 また、同弁護団によると、数人の女性が「夜間、居室で寝ている時に性的暴行を受けた」 「（理事長に）裸にされ体を触られた」などと証言。 同園は今年７月に福島県の監査を受けるまで、午後６時が消灯時刻で、 園生らには睡眠薬を飲ませて寝かせていた。 夜間は理事長が一人で宿直勤務していたという。 理事長は、以前、女性の１人が性的暴行の被害に遭ったことは認めたが、 「外部から侵入した男が逃げていくのを見たが、１１０番はしなかった。私自身は関与していない」などと釈明。 また、「入浴介助」として「（理事長が）ふろ場で裸になった女性園生の体を洗っていた」と認めた。 同園での虐待は１０年近くも続いていたが、１１月１４日に毎日新聞の報道などで初めて明らかになった。 その後、現職の職員や保護者らからの内部告発が相次ぎ、被害者弁護団は同２５日に理事長らを県警などに刑事告発し、 この日の強制捜査へと事態は急展開した。

　白河育成園事件で、福島県は園を運営する社会福祉法人に対し社会福祉事業法に基づく 改善命令（措置命令）を出すことを決め、１２月２６日、同法人に通告するとともに、来年１月６日を期限に、 決定に対し弁明書の提出を求める通知を郵送した。 弁明書が提出されなかったり、出された内容に改善が見込めない場合、即刻、 改善命令を出す方針。
県は命令の理由として
（１）刑事告発されるなど社会福祉法人の信用を失墜させた
（２）再三指導したのに理事長が独断的運営を改めない
（３）園生が多数退所し（資金的に）運営が無理
――などを挙げた。 改善命令が出されると、６０日間の不服申し立て期間が置かれ、さらに１週間程度の改善猶予が与えられる。 同園が正常な運営をしない場合、解散命令か一部の業務停止命令を出せる。

　白河育成園の理事会が解散を決議していたことが１２月２９日分かった。 職員らに同日、解雇通告を行うとともに取引先銀行に廃止を伝えた。 理事長が清算人に就任し、土地や建物を処分し約１億４０００万円の借金の返済に当たる。 障害者施設が廃止に追い込まれたのは全国初。 医師法違反や暴行容疑で理事長への捜査が行われる中、施設そのものが解散する異例の展開になった。 関係者によると、同園を経営する社会福祉法人・幸愛会の理事会が２６日に開かれ、 理事長から自主解散に関する説明があり、協議したうえで了承を得たという。 来月初め、福島県に正式に廃止届を提出する予定。 体罰や薬の大量投与が明らかになり、これまでに計２４人の園生が退所したため大幅に運営費が削られ、 経営が行き詰まっていた。 園側は職員１５人全員に対し、来月３１日付で解雇することを通告した。 理事長らは医師法違反などで告発され、福島県警が１９日に同園を家宅捜索するとともに 理事長や職員から事情聴取。 さらに被害者側弁護団は複数の女性園生に対する性的虐待があったとして理事長らを告発することを決めている。 「追い詰められた理事長がこれ以上責任を追及されることに耐えられなくて投げ出した」と弁護団は話す。

　白河育成園理事長に対し、法務省人権擁護局は１月２３日、 「園生への人権侵害を深く自戒し、被害者に謝罪する」よう異例の勧告を行った。 また、同園を監督する立場の福島県知事に対しても 社会福祉施設での入所者の人権擁護について適切な指導監督を行うよう要望した。 同園での虐待に関しては、福島県警が医師法違反、暴行容疑などで捜査している。 福島法務局は昨年１１月、園に対し、立ち入り調査を実施。 理事長と、理事長の長男、さらに園生数人から園生への待遇などについて聞き、 人権侵害の有無を調べた。 その結果、理事長らが園生らに日常的に殴るけるなどの暴力を振るっていた事実などが認められた。 同局などは「被害者の人間性を無視したきわめて遺憾な行為であり、人権擁護上、到底、看過できない。 社会的に弱い立場にある知的障害者に対する重大な人権侵犯だ」などと話している。

　白河育成園を運営する社会福祉法人「幸愛会」の理事と監事に、 同園と取引のある建築、電気設備業者３人と公認会計士が含まれていたことが１月２４日、分かった。 業者は計２億５０００万円以上の同園建設工事を請け負っていた。 社会福祉法人では、厚生省通達で取引業者の監事就任は認められていない。 理事長が保護者から集めた多額の寄付金が、法人の役員が経営する会社に流れていた構図が浮かび上がった。 同法人の理事会は昨年末、自主解散することを決議したが、 厚生省や福島県は理事長・理事の責任を明確にしない限りは廃止届を受理しない意向を示しており、 役員の責任問題が焦点となっている。 １９９６年１月、県に認可された「幸愛会」の役員は、理事６人と監事２人。 理事には理事長と長男、保護者２人と建築業者２人、監事には電気設備業者と公認会計士が就任した。 このうち、監事の電気設備業者は９２年７月以降、園の浄化槽などの工事を請け負い、 ９５年７月、居住棟の電気・給排水工事計５３５６万円を受注。 公認会計士も同園の会計処理を行い、報酬を得ていた。 理事の２人が社長と営業担当を務める建設会社は９２年７月以降、管理棟工事などを請け負い続け、 ９５年５月、居住棟の新築工事を１億１３３０万円で受注。 認可後も、ほかの業者とともに職員の浴室や物置の工事を受注していた。 同園は約３０人の園生の保護者に、施設改築費として１人当たり８００万円の寄付を要求していた。 厚生省は、施設整備などに密接にかかわる業者が監事に就任することを認めていない。 また、法人が発注業者を選定する際は、業者の理事は議決に加えないなどの指導をしている。 福島県の再三の指導を受け、公認会計士は昨年１２月、建設会社の理事２人は同８月に辞任、 電気設備業者も今月、辞表を出した。 同省障害福祉課は「監事は工事価格の適正さなどをチェックする立場で、 受注業者が就くことは考えられない。 また施設建設を請け負った業者が理事に就くのも好ましくない」と話している。

　白河育成園は全職員に解雇を通告し、事実上廃園となった。 ３１人いた園生は今月半ばまでに全員が緊急保護されるなどして他施設へ移った。 理事長は来週中にも正式に廃止届を福島県に提出するが、認可された障害者施設が廃園となるのは全国で初めて。 厚生省や都道府県の福祉施設に対する指導や監査の甘さが改めて浮かび上がっている。 同園は１９８８年８月、無認可の「生活ホーム」として開設され、 ９６年１月に福島県から認可された。 同園は改築の際、保護者から８００万円ずつ寄付を強要。 １０００万円以上寄付した保護者もいる。 また、銀行に約１億４０００万円の借入金があり、理事に就任している２人の父母が連帯保証人となっている。 廃園後は理事長が清算人となって、園の土地や建物を売却し借金返済に充てるが、 保護者の寄付は返還されるメドが立っていない。