私たち白河育成園事件被害者弁護団に対するご支援ありがとうございます。あらためて御礼を申し上げます．
ところで、白河育成園事件の＜その後＞も、昨年の１２月中旬以降、事態は大きく変化・進展しました．そのような新しい事態を迎えて、白河育成園事件の〈現在〉と〈今後〉について報告させていただきます。
ところがその緊急連絡書の発送直後の１２月１０日過ぎ、それまでの 暴力と薬物による虐待の他に新たな女性園生たちに対する＜性的虐待＞ という事実が発覚いたしました。
それまで私たちも、理事長が女性の風呂をのぞいたりしているというセクハラ的事実がでてきていましたので、その疑わしさはもっていましたが、しかしそれ以上の事実を確認してはいませんでした。ところがその後、本人たちから多くの虐待が語られる中で、その性虐待の被害を女性園生たちは、 それまでしゃべれなかった “つらい被害”として泣きながら語ってくれました。その内容は、聞く者を怒りと絶望に陥れるものでした。
その後になって、性的虐待を裏付けるような事実が職員など関係者たちからも次々と語られ、発覚してきました。それは私たちの活動（闘い）の影響でもありました。
それまで理事長らの暴力的支配の「恐怖」から、自分の体験（虐待の被害）を しゃべる ことができなかった本人たちが、 ＜この白河育成園からでていける＞ ＜しゃべっても仕返しされない＞ という状況（力関係）の変化の中で被害を「告発」する勇気をもち、多くの虐待の被害（体験）が語られるようになりました。 新たな性的虐待も、そのような変化の中で発覚したものといえます。
女性園生の保護者の一部は、このような白河育成圏の「虐待の現状」に怒りそして絶望して、直ちに園から退去させることを決め、東京の自宅に引取りはじめました。そこで私たち弁護団と保護者会（弁護団を依頼した保護者たちの「めばえの会」）は、１日たりとこのような施設に置いておけないことを決め、緊急の行動として12月14日に一斉退去することとしました。 １２月１３日に緊急の保護者会と弁護団会議を開催し、新たな闘いのはじまりを確認しました。そして１４日、私たち弁護団・支援者は大勢で園に乗り込み、理事長と直接交渉をもち、性的虐待についてそれを裏付けるいくつかの事実を確認して、一斉に退去しました。この時点で、園生３１名中２１名の園生が園から退去したことで、実質上園の「廃園」が決定づけられました。
そして翌１５日午前中、弁護士会館で記者会見を開催し、園を退去してきた本人たちが多くの報道陣とテレビカメラの前で、自分たちが受けた虐待の事実を告発しました。 その日の午後には、保護者と本人たち約４０名が＜障害者虐待を許さない！＞＜都は一刻も早く誠意をもって緊急保護せよ！＞という横断幕やプラカードをもって、都庁に抗議に出向きました。 都に事前に私たちの“怒りの行動”を予告していたところ、都は１５日になって急遽〈緊急保護の内容〉を発表して 誠意ある対応をしてくれることになりました。私たちにすれば、「退路を自ら断って活路を切り開く思い」での抗議と直接交渉にのぞんだ訳ですから、都が緊急保護の体制を明らかにしたことで本当に安心しました。
私たち弁護団の園生（本人）たち２１名全員が、それぞれ保護者の近くの「評価の高い施設」に緊急保護されることとなって、年内に入所しました。ただ本人たちは、長期間にわたる抑圧と虐待の中で心身ともに「被害」を受けており、そのためにその「ケア」と「人間としての力」の回復を必要とする状態にあります。
なお、私たち弁護団は、あちら側（最後まで理事長を擁護してきた保護者たち）の園生たち約１０名の「救出」（緊急保護）についても、当然その本人たちの要望を聞くとともに、福祉行政そして保護者たちに働きかけをしてきております。
そしてその「解散の決定」については理事長擁護派保護者たちも了承し、園に残っていた園生たち７名（すでに理事長派の保護者の園生３名は、その後福祉の働きかけに応じて退園した）については、その担当福祉事務所にその移転先（措置変え）を早急に確保していだだきたいと申し入れている、ということでした。職員たちも、１２月２９日に理事長から１月３１日をもって園を解散するので全員解雇する旨通告されています。ただその所轄の福島県は、新聞報道によれば「いまだ残っている園生たちの移転」や、「終生面倒をみるとして保護者から強要した寄付金の返還」などの問題が解決していないので、正式な解散の認可をしていないとのことのようですが、しかし解散＜廃園＞ということに向けて事態が進んでいることに変わりはありません。要するに、 ここ１ヶ月のうちに残った園生たちも各福祉事務所により無事保護されて園を退去し、そしてこの白河育成園は解散（解体）することになるでしょう。
なお、私たちが当初からこの白河育成園の「解体」を目的とした闘いをなしてきたのかといえば、そうではありません。当初は 理事長ら執行部を排除した〈施設改革〉が目的であったといえます。しかしその後、この白河育成園の実態（多額の負債と虐待の深刻さ）が明らかになるにつれ、このような福祉施設が存在すること自体に”憤り”を持ったことは確かです。そして私たちは何よりも入所している本人たちの多くがこの白河育成園でこのまま暮らすことを納得していない、という“事実”を思い知らされました。一人ひとりの本人（知的障害者）の“人権を擁護する闘い”というのは、本人たちの〈東京にもどりたい〉＜街で暮らしたい＞＜働きたい＞＜結婚したい＞という 自由と自立への訴えを「施設の改善」に押さえこむ（我慢させる）ことなのか、 という問題につきあたりました。
そんな状況下で私たちは、知的障害者（本人たち）が自分の街で生きていけないという現状を容認しない、本人たちの＜東京にもどりたい＞という希望を実現していく、そのために白河育成園の実態を告発し、その存続を許さず厳しく福祉行政の責任を追及していく、という〈選択〉をなしました。振り返って私たちは、知的障害者を虐待し「不幸」にする知的障害者施設が存在することを容認できないし、白河育成園のような施設は〈解体〉されるべきだと“自信”をもって主張します。
私たちは被害者の人権擁護をなす弁護士グループ（障害問題人権弁護団）として活動してきており、その立場から今回の白河育成園事件についても知的障害者施設における<多数の障害者に対する虐待事件〉として受任しました。受任当時から、この事件は“施設ぐるみの虐待事件”として明白であったこともあって、多数の弁護士と福祉職の支援者の結集（協力）が必要な事件でした。私たちが受任した入所者も約２０名と多人数であったため、参加・協力する弁護士も約１０名にのぼったし、また活動に協力してくれた支援者も約２０名近くになりました。 そしてそれだけの参加・協力をえながらもこれまでの“活動”はしんどいもので、相当な「負担」と「犠牲」を払ってやってきたといえます。私たちの活動は〈虐待の現場〉との闘いですので、ゆうちょうなやり方では目的を達せられません。この闘い自体がどうしても集中した短期的なやり方となり、弁護団として相当無理をしたといえます。
今後、私たちが白河育成園事件としてどのような〈活動〉がやれるのか、また弁護団としてなんらかの活動が持続できるかどうかは、ひとえに社会的支援如何にかかっているのではないでしょうか。弁護団として、再編成（新体制）できるかどうかも、私からみてこの白河育成園事件への社会的支援がどこまでの拡がりをつくりだせるかにかかっていると思っています。
ここで私たち弁護団の”内情”をあらためて報告し、これからの人権擁護活動のあり方について考えてもらおうと思います。 まず私（事務局・副島）は、この白河育成園事件の受任打診（相談）があった時点で、私たち弁護団（障害問題人権弁護団グループ）のメンバーが現在それぞれ障害者の人権侵害事件やそのための活動で余裕がなく、厳しい状況にあることを話しております。例えば、事務局をやることになった私の場合、障害者の人権擁護で弁護団を編成している事件が３件、その他に障害者の人権侵害事件を数件扱っています。他の弁護団の中心メンバーも私と似たりよったりで、実際のところ〈力量と条件〉を超えているような状況にあります。
そして特に＜きつい条件＞として、障害者の人権侵害事件の活動の多くが弁護士のプロポノ（ 無報酬の弁護活動 ）となっているということがあります。この私たちの社会には、いまだ社会的制度として障害者の人権活動を支える財政的基盤がありません。今回の白河育成園事件では、弁護士と支援者の活動としてその実費（交通費等）を保護者からだしていただいたり、カンパ等でまかなっていますが、事務所経費・日当・謝礼といった仕事の対価（報酬）はありません。この種の人権侵害事件で通常の弁護士業務のような弁護士報酬を期待することがそもそも無理ともいえますので、それだけに〈社会的支援〉でそれを支える力をつくる必要があります。
少し苦言をいいますと、「社会的弱者」の人権活動をなすことがなにか弁護士のボランティアをする義務（？）とされているようなところもあります。ボランティアで福祉にかかわっている人も別に自分の仕事があってかかわっておられることが多いはずですが、弁護士の場合、どうもその活動が仕事だという理解がうすいところがあります。街のそば屋の主人にタダでそばを食わせることがボランティアだという人はいませんが、弁護士の場合、何か特別の高収入が保障されているという誤解があるのか、そのあたりがあいまいにされています。みなさんにはこのところを考えていただきたいと思います。弁護士による障害者の人権活動がそれなりに経済的に保障されることは、障害者の人権擁護（制度的保障）からみて大切なことではないでしょうか。
欧米では、弁護士による〈障害者の人権擁護の公共的制度〉がいろいろとつくられています。とりわけアメリカでは、人権侵害を受ける障害者から弁護士へのアクセス（接近）はさまざまな形で社会的に保障されて、そして活発にその裁判等の弁護活動がなされています。我が国にはそのような公共的制度がないだけに、むしろそのような人権活動を支える“社会的な力”を結集することが求められて いると思います。 どうでしょうか。
要するに私がいいたいことは、このたびの白河育成園事件の教訓（反省）として、今後障害者の人権擁護のための弁護団活動をつくり保障していくためには、早急に財政的基盤づくりに向けた社会的支援を結集していく運動（ネットワーク）が必要とされているということです。ただその運動は、やはり社会的な信頼と期待にこたえられる団体や人たちが中心となっていかねばなりません。社会的支援という運動が政治的に利用されたり、また当事者を無視した「暴走」になったりすることもあります。
その意味で、私は福祉関係者の中からその〈基盤づくりの運動〉がうみだされる必要があると考えています。
１１月２５日、本人たちとの“集会”で、本人たちがそろって自分の夢と怒りを主張したあの＜熱気＞は、まさに圧巻でした。そして１２月１４日。一斉退去する時、一人ひとりのあの喜びの表情と姿は、今も私の脳裏に焼き付いています。１２月１５日、記者会見と都庁への抗議行動でみせた本人たちの力強さとその変貌ぶりには本当に驚かされました。私はあらためて〈人はこんなに変わるのか〉と自分の“無知”を思い知らされると同時に感動させられました。
そして内部告発した職員も、保護者の方々も、私からみて本当に「変わった」とみえます。当初、労働条件の「ひどさ」が告発の動機かと思えた職員の人たちが、廃園（解雇）が現実化していく中でも本人たちとの“かかわり（支援）”に自分たちの役割をみつけようとする姿勢を知り、その彼女たちの「犠牲」に感謝しましたし、そして「福祉（職員）」に希望を感じました。保護者の人たちも、はじめの頃の行き所のない「不安」や「動揺」が虐待の事実と本人たちの訴えを知る中で怒りに変わり、「反省」となり、そして「自信」となって行動に表れていきました。
そんな本人たち、職員たちそして保護者の人たちの変化「おびえ・不安」から「怒りと自信の行動」へのひとつひとつが、私にとってはこの白河育成園事件の意義であったという思いがしております。この意義はやはり語りつがれるべきではないでしょうか。できるなら、その当事者たちの“主張”として、多くの人たちにその体験が語られ、そして伝えられるべきだと思っております。
そして社会福祉法人として認可された知的障害者施設が、その利用者（知的障害者）に対する人権侵害を理由に“廃園（解体）”に追いこまれたという事実は、あらためて＜施設の実態と将来＞を考えさせる事件であったといえるのではないでしょうか。白河育成園事件とは“何であったか”を考えるために、その当事者の主張を中心とした集会「白河育成園事件の総括」を現在の緊急保護としての期問（３ケ月）の切れる今年の３月上句頃に、〈総括集会〉と銘うって開催したいと考えております。
そしてこのような集会を開くことは、私たち弁護団グループの＜障害者虐待を許さない！＞という旗をかかげての闘いが単なる「福祉の現場」攻撃でなく、我が国の社会と福祉の変革を迫る実践なのだということを多くの福祉関係者に知っていただける機会にもなると考えます。それと同時に、私が＜弁護団の活動＞で前記した障害者の人権擁護の基盤づくり、例えば＜知的障害者・人権センター〉という展望へつなげる試みにもなるのではないか、とも思います。
よろしくご検討下さい。
（以上文責・事務局副島）