私たち弁護団は、この白河育成園事件の実態にふれ、あらためて人権の視点から我が国の福祉政策の“質の低さ”、そして知的障害者施設の“貧しさ”を思い知らされています。白河育成園事件のような知的障害者に対するひどい虐待事件が、ここ数年つぎつぎと発覚してきました。福祉行政をはじめ関係行政機関は、そのたびに反省の言葉と真相の究明を繰り返してきていますが、はたしてそれはどこまで真剣な、実効力を伴った“反省”だったといえるのでしょうか。あらためて、これまでの反省と責任のあり方が問われるべきだし、我が国の福祉施設の構造そのものの根本的な見直しが図られるべきだと考えます。

＜当面の課題　東京都・区・市及び横浜市ら福祉行政の責任＞

１．東京都らの福祉行政は、一刻も早く知的障害者（本人たち）を虐待の現場から解放し、人間らしい暮らしを保障すべく本人たちの意思（希望）とその障害にあった地元の施設に緊急保護すべきです。

２．入所者本人たちの多くが、これまでの暴力・薬物乱用等の虐待行為により、心と身体に大きな被害を受けて今も苦しめられています。薬物乱用による被害は、本当におそろしいまでの「人間破壊」（廃人化）であり、直ちに医師等専門家によるこれまでの治療・投薬状況の調査と、その被害回復にふさわしい医療的なケアがなされるべきです。

３．今後の緊急保護及び措置変更において、本人と保護者の意志と希望を無視した“やり方”は決して許されません。とりわけ本人の意思（希望）を尊重し、その障害にあった緊急保護と措置変更（施設等の選択）がとられるべきです。

４．この白河育成園の実態は、いまだ十分に解明されてはいません。先に私たちが実施した園での事情聴取において、本人たちは恐怖による心理的な拘束から、その暴力や虐待の実態を十分に語ってはくれませんでした。一部の人たちは 理事長らの「権力」をおそれて、園の実態を語ることを拒んでいます。

　そのため、まず入所者本人たちが、園への心理的拘束から解き放たれる環境の下で、私たち弁護団に十分に語ることのできる機会を保障していただきたい。

＜白河育成園事件の今後の課題＞

知的障害者施設をはじめ、入所の福祉施設そのもののあり方が根本的に見直し・検討されるべきです。 障害者であろうとも、誰もが〈普通に人間らしく生きる〉ことが保障されるべきです。 知的障害者入所更生施設である白河育成園を、〈生涯にわたって世話してやる終生施設〉などと称して、 保護者らの「親なきあと不安」や「我が国の障害者福祉の貧しさ」などにつけ込み、まるで 刑務所のごとき施設の中に開じ込め、障害者の＜普通に人間らしく生きる希望＞を奪ってきました。 人を終生閉じ込める入所施設など、許されません。

１９９７．１１．２１．