前略。

　突然の連絡となり、失礼いたします。

　私たち（白河育成園被害者弁護団）から福島県西白河郡西郷村にあろ都外施設（東京都の知的障害者を対象とする施設）でおこった、知的障害者入所更正施設・白河育成園（定員３０名、入所者は私的契約者１名を合めて計３１名）での、長年にわたる、入所者に対する暴力と薬づけ、そして保護者からの多額の寄付金強要という白河育成園虐待事件について、全国の育成会関係者・都下の知的障害者施設関係者及び知的障害者の人権擁護にかかわる人たちに、現在の情勢の報告とともに緊急の支援の要請をさせていただきます。

　現在、この白河育成園事件は、入所者の緊急保護（措置変え等）と廃園をめぐって緊迫した状況にあります．その中で、この虐待事件をつくりだした福祉行政の“責任”は、これまでの知的障害者施策の反省や見直しもなく、単に「知らなかった」で済まされようとしています。

　入所している知的障害者の人たちは、そのほとんどが暴力やいじめのない暮らしをしたい、ここから出て働きたい、街で暮らしたい、普通に暮らしたい、という強い願いを訴えています。 私たちは、あくまでもその知的障害をもつ本人たちの立場にたった”権利擁護（アドボカシー〉”の役割を果たしていきたい。

（これまでの経緯）

この白河育成園の実態は、今年の春（４月）、一部の職員たちが突然 「これ以上園長（ 理事長）についていくことはできない」 「入所している園生があまりにかわいそうだ。このままでは死んじゃうかもしれない」 「やめるにもこのままではやめられない」 という悲惨な現状を保護者たちに訴えたことから発覚しました。保護者たちは本当に驚き、強権的な園長の眼から隠れて連絡をとりあい、立ち上がりました。東京都の「すてっぷ」（知的障害者等権利擁護センター）の弁護士相談に出向き、高村浩弁護士が担当することとなり、改革の声を上げた保護者たちを支援しはじめました。保護者たちが福島県、東京都及び都下の措置機関である区・市等に実態を訴えたことから、福島県と東京都も緊急監査の調査に人り、その“虐待”（暴力と薬づけ）が明らかとなりました。強い行政指導もなされました。

　しかし、 理事長ら役員たちとそれを支援する保護者たちは、精神薄弱者福祉法や社会事業法等の制度の不備（公的福祉施設であるにもかかわらず、理事長や施設長はいわば無資格で誰でもなれ、その罷免権等も行政にないという法制度）を「たて」にとって居直り、改革の声をあげた保護者や職員たちに“反撃”にでてきました。そんな膠着した状況の中で、今年の８月、障害問題人権弁護団に支援の依頼と相談があり、そして９月に白河育成園被害者弁護団（計７名の弁護士）が結成されました。入所している知的障害者の“人権擁護”のために現状の施設福祉の状況下で、知的障害者の「最善の利益」を実現していく、という活動をはじめました。

　その際、弁護団は、知的障害者本人の〈理解と支援〉のために、 知的障害者福祉の現場で活動している多数の関係者（職員ら）に“支援者”として参加してもらい、本人や保護者からの事情聴取・その成育歴や障害・そして今後の“生き方”等についての調査と支援等に協力してきてもらっています。私たちとして、これまで東京都（精神薄弱者福祉課）をはじめ、障害者をこの白河育成園に招介し、措置してきた各区 市の自治体（障害福祉課と福祉事務所）に対して、その“責任追及”をなし、これまでの知的障害者福祉施設の見直し「知的障害者が遠隔地の人里離れた山間部の施設に送られるのでなく、自分の育った街で生きていける政策」を迫ってきています。

（これからの課題）

　私たち弁護団は、１１月２１日に発表した「弁護団声明」 を、この時点になってもあらためて繰り返さざるをえない事態にあります。

　私たち弁護団は、１１月２５日、地元の白河警察署に 理事長と一部暴力職員を刑事告発しました。 医師の資格もなく、医師の処方に基づかない大量の精神薬を多くの入所者に投与しつづけてきた行為（医師法違反と常習傷害罪）や、入所者がいうことを聞かないとして殴りつけるなどの暴行を繰り返してきた行為（常習暴行罪）、そして「身寄り」のない入所者（私的契約）の財産一切を勝手に＜後見人＞と称して自分の思うままに消費してきた行為（業務上横領罪）は、まさに犯罪です。しかし今も入所者たちは、刑事告発された 理事長や一部暴力職員の支配下におかれたままにあるのです。

　ところが、都下の各区の担当者たち（課長と各区の精神薄弱者福祉司）の中には、 「この白河育成園をつぶしてどうしようというのですか」 「（入所者や保護者に）あと２、３年ここにいることになりますよ」 「（某区の課長の言葉）責任？どういうことでしょうか？」 「ここはいい施設だといっている保護者の人たちもいるんですよ」 という言動を公然ととっています。 「ノーマライゼーション」 とか「地域福祉」という言葉が、 福祉行政の現場ではいかに虚しいものかがよくわかります。 福祉行政に対しては、その責任以前の、人間としての“感性”がまず問われるべきだ、という思いにさせられています。私たちは、１１月２１日、都主催による保護者・弁護団と都下や横浜市などの措置機関の各区・市の責任者（課長と担当ケースワーカーら）との協議の場で別紙のような〈弁護団声明〉を発表し、〈当面の課題〉と〈今後の課題〉の実現を迫っています。 しかし、現在（１２月８日）まで、その当面の課題すらがいまだ何一つ実現されていないという状況下にあります。この白河育成園を認可し指導・監督すべき義務のあった福島県、そしてこんなひどい施設につぎつぎと被害者を紹介 し措置して送り込んできた都下の各区や市、さらに都外施設として公認し支援してきた東京都、それぞれの責任は免れがたいはずですが、しかしそれら福祉行政は、その自覚すらないか、若しくは“責任の押しつけ合い”をなしている、というのが現状です。そんな無責任な福祉行政を許せません。

　福祉行政にすれば、「どこか別の施設をさがして措置すればいい」というのがせめての責任（問題解決）であって、知的障害をもつ本人たちの＜普通に地域で自分らしく暮らしたい＞という願いを地域で支え援助していくという、地域福祉の施策などを考え、具体化しようともしていません。 今、知的障害をもつ人たちの“思い”を実現しうるような、人所施設でない別の“福祉の選択肢”を早急につくりださねばならない、ということが問われているはずです。この事件が、そしてこれまでの知的障害者虐待事件が私たちと福祉行政につきつけた“課題”は何なのか、があらためて問われるべきです。

（みなさんへの要請）

１.あらためて下記の責任ある福祉行政に対して、弁護団声明にある＜当面と今後の課題＞をただちに実行し取り組むよう、強く要請し、抗議していただきたい。

２．この白河育成園事件の闘いを、物心両面にわたって支援していただきたい。現在、内部告発した職員の人たちは、廃園と解雇を前にして、本当に苦境にたたされていますし、闘っている保護者や私たち弁護団も青息吐息の状態です。社会的な力を結集して現状を打破し、知的障害者の本人たちの願い（思い）を少しでも実現しうる努力をやっていきたい！支援をお願いします。

３．私たち弁護団の＜弁護団声明＞と今回の＜緊急連絡書＞、そして＜毎日新聞の記事＞

を多くの人たちとその家族や福祉・教育・労働などに関わる関係者に、広く知らせていただきたい。

　私たちはこの事件は昨年来発覚してきている知的障害者虐待事件のひとつであり、氷山の一角だと考えています。

　自分達の地域や施設に、本当にこのような暴力・薬づけ・寄付金強要などの「虐待」はないのかどうか。どうしたら知的障害者の「人間の権利」を護ることができるのかを是非論議し、取り組んでいただきたい。